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東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)149号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実及び本願第二発明の要旨が審決認定のとおりであること、第一、第二引用例に審決認定の発明が記載されていること、本願第二発明と第一引用発明の相違点が審決認定のとおりであることは、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の取消事由(1)について検討する。

1 本願第二発明の技術内容について

成立に争いのない甲第三ないし第五号証(本願明細書及び手続補正書)及び前記当事者間に争いのない本願第二発明の要旨によれば、本願第二発明は、「カーペツト裏打用接着剤に関するものであり、後加工により風合の損なわれないカーペツトを提供しようとするもの」(甲第三号証一頁九行~一一行)であつて、「高分子ラテツクス一〇〇重量部に対して一〇〇~三〇〇重量部の水酸化アルミニウムを配合したラテツクス組成物をカーペツト裏打用接着剤として使用するとき、カーペツト表面側に防炎剤を付与せずして所要の防炎性能が生じること、そして、この様に組成したカーペツト裏打用接着剤はカーペツトの原反の後処理仕上工程でトラブルを発生させないという知見を得て完成されたもの」(同三頁一〇行~一八行)であること、そのため、高分子ラテツクスに難燃剤として水酸化アルミニウムを加え、「水酸化アルミニウムの配合量が高分子ラテツクス一〇〇重量部に対して一〇〇重量部以上である」(前記本願第二発明の要旨)ことを発明の構成としたもので、「カーペツトの表面側に防炎剤を付与することなく防炎性のあるカーペツトを提供するものであり、従つて好風合で防汚性のあるカーペツトが得られると共に、溶液状の防炎剤をデツピング方式やスプレー方式で付与する一般の防炎加工工程に所要の格別の装置を必要とせず、工程管理上からも合理化され、又、溶液状の防炎剤の付与後に必要とされる溶液中の溶媒の加熱発散が不要であるため省熱エネルギー化され、この様にして得られるカーペツトはハロゲンを含有しないために火炎その他の加熱により有毒ガスを発生せず、従つて、火炎時の有毒ガスによる二次的災害を有効に防止し、更に、導電性のある水酸化アルミニウムが裏打付着させられることになるので静電気の発生しないカーペツトが得られる」(甲第三号証九頁五行~一九行)という作用効果を奏するものであることが認められる。

2 第一引用発明と水酸化アルミニウムについて

これに対し、第一引用発明の内容は審決認定のとおり(審決の理由の要点2)であつて、本願第二発明と第一引用発明との相違点が難燃剤の種類及び配合量について限定があるか否かであることは前示のとおり当事者間に争いがない。

ところで、(イ)成立に争いのない甲第六号証(第一引用例明細書)によれば、第一引用発明は、パイル織物をその審美的性質を損なうことなく難燃性にすること、パイル織物の製造工程において別個の工程として難燃組成物を塗布する必要性を解消すること、可燃性の繊維から製造されて、しかも難燃性を有するパイル織物を提供することを目的とし、「このような目的は、難燃剤を含有する組成物をパイル織物の基布に塗布することから成る方法によつて達成される。基布層に対する透過性は、組成物がパイル表面の基底部に侵入し且つ少なくとも1/16インチの距離だけ繊維を被覆するように制御するものである。」(甲第六号証訳文一頁下から二行~二頁二行)、「エマルジヨン即ち難燃剤の担体は、多孔性の基布に容易に浸透し且つ繊維に塗布された場合、連続した柔軟な皮膜を形成するものから選択するべきである。」(同三頁七行~九行)、「かかる難燃剤組成物の粘度は、当然のことながら、処理する特定の織物にたいして適度の浸透性を付与するよう、調節しなければならない。即に述べたように、かかる浸透性は、パイル中の繊維の大部分を基布に隣接して少なくとも1/16インチの距離だけ被覆・コートするに充分なものでなくてはならない。しかしながら、かかるコーテイングは、繊維の先端部にまで伸展して、織物の手触りや風合いを損なうものであつてはならない。」(同五頁一行~六行)との記載があることが認められる。右記載によれば、第一引用例記載の難燃性組成物及びこれに含有されている難燃剤はパイル織物の基布及びこの基布に隣接するパイル中の繊維内に浸透する作用を有するものと解される。また、(ロ)同号証によれば、第一引用例の難燃性組成物に配合する難燃剤それ自体について、「一般に、織物の基布に浸透する液状溶液、分散液又は乳化液に混入することができ且つセルロース及びアクリル繊維をその柔軟性を失うことなく難燃性にすることができるものなら、何れのものでも選択してよい。」(同三頁一三行~一六行)との記載があることが認められ、右記載によれば、難燃性組成物中の難燃剤それ自体は、織物の基布に浸透する液状溶液、分散液又は乳化液に混入することができ、繊維に難燃性を付与する性質以外に、少なくとも、繊維の柔軟性を消失させないという性質をもつ難燃剤を使用するものと解される。右(イ)と(ロ)を総合すると、第一引用例の難燃剤は、(a)パイル織物の基布に浸透する液状溶液、分散液又は乳化液に混入することができるものであること、(b)パイル中の繊維に難燃性を付与することができるものであること、(c)パイル織物の基布及びこの基布に隣接するパイル中の繊維内に浸透する作用を有するものであること、及び(d)パイル中の繊維の柔軟性を消失させないものであることを必須の要件とするものであると解すべきである。したがつて、第一引用例には、パイル織物に難燃性を付与する方法において右(a)ないし(d)の性質を具備する難燃剤を使用する技術が開示されているものと認められる。もつとも、右第一引用例明細書には、「難燃剤は種々のものを用いてもよい。」(同号証訳文三頁一三行)及び「難燃剤の種類は決定的なものではない。」(同三頁二〇行)との記載があることが認められるが、右記載は、前記(a)ないし(d)の性質を具備するということを前提としての記述であることが同明細書の記載全体に徴し明らかであるから、前記認定を左右するものではない。他に同明細書に前記認定に反する記載はない。

一方、本件全証拠を検討しても水酸化アルミニウムが右(c)(d)の性質を有することを認めるに足りる証拠はない。してみると、第一引用例に記載の難燃剤について「種々のものが使用できることが示されている」とし、水酸化アルミニウムが難燃剤として第一引用例に示されているとする審決の認定は、前記(a)ないし(d)の点特に(c)(d)の点を看過したもので誤りといわなければならず、また、同旨の被告の主張も採用できない。

3 そうとすると、第一引用例に難燃剤として水酸化アルミニウムが示されていることを前提として、本願第二発明と第一引用発明との前記相違点に格別の創意工夫を要したとすることはできないとした審決の認定は誤りであり、原告主張の取消事由(1)は理由がある。

三 右認定の誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは、前記当事者間に争いのない審決の理由の要点に照らし明らかであるから、その余の取消事由について判断するまでもなく、審決は違法として取消しを免れない。

よつて、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容する。

〔編註〕 本願発明の特許請求の範囲は左のとおりである。

1 カーペツト原反の裏面を構成する繊維間に、高分子ラテツクス一〇〇重量部に対して一〇〇重量部以上の水酸化アルミニウムを配合したラテツクス組成物を浸潤塗着し裏打して成る耐炎性カーペツト

2 高分子ラテツクスと水酸化アルミニウムとを主成分とし、水酸化アルミニウムの配合量が高分子ラテツクス一〇〇重量部に対して一〇〇重量部以上であるカーペツト裏打用接着剤

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